カルダモンだもん

Cardamom - damon

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カルダモンは世界で3番目に高価なスパイスか?

結論:カルダモンはもはや3番目に高価なスパイスとは言えない。

1. はじめに

カルダモンはサフランとバニラに次いで3番目に高価なスパイスと言われています[※1]。しかし、実感としてはそれほど高価なスパイスだとは感じません。そこで、カルダモンが本当に3番目に高価なスパイスなのかを調べてみました。

2. 調査方法

主要なスパイスとして「香辛料の世界史」[1]に「主な香辛料」「香料」としてとりあげられている以下の11種類を調査対象としました。

各スパイスの日本における小売り価格を、大津屋・楽天店で調査しました(調査日:2020年3月15日)。ひとつのスパイスについて複数の商品が販売されている場合、原型(ホールスパイス)、最小容量の商品を優先して採用し、1gあたりの価格(消費税含まず)を算出しました。価格調査に使用した商品とその価格の一覧は別表に示します。

3. 調査結果

各スパイス1gあたりの小売価格を図1に示します。図では価格が高いものから順に並べています。

スパイスの価格の比較
図1. 主要スパイスの価格比較

結果、最も高価なスパイスはサフラン、2位はバニラでした。この2つの価格は他のスパイスから突出しています。ここまでは想定どおりの結果です。次に肝心の3位ですが、今回調査した範囲ではメースでした。カルダモンはそれに次ぐ4位でした。3位のメース以下の価格が図1では分かりにくいので、軸のスケールを変えて3位以降の価格を改めて図2に示します。

スパイスの価格の比較
図2. 主要スパイスの価格比較(3位以降)

メース、カルダモン以下の順位は、ナツメグ、クローブ、シナモン・・・の順となりました。カルダモンの1gあたりの価格は約20円でした。メースの価格はカルダモンの約1.5倍、バニラは同20倍、サフランは同100倍という結果でした。一方、最も安かったターメリックはカルダモンの1/3程度の価格でした。

4. 結果の分析

4.1. カルダモンは世界で3番目に高価のなスパイスか?

カルダモンの重量あたりの価格は、サフラン、バニラ、メースに次ぐ4位であり、3位ではありませんでした。サフラン、バニラの価格は他のスパイスに比べ突出しているものの、メース以下スパイスの価格差はそれほど大きくはありませんでした。メースはカルダモンの約1.5倍、ターメリックは1/3程度と、サフラン(約100倍)やバニラ(約20倍)との価格差に比べると一桁以上価格差が小さいことが分かります。

カルダモンは、香り付けを目的としてホールのまま使うこともありますが、挽いて使う場合、通常は種子のみを使用します。そのため可食部の重量あたりで比較すればカルダモンはもっと高価であるということもできます。カルダモンの莢(サヤ)を取り除いたあとの種子部の重量は、ホール全体の2/3程度です[※3]。したがって、カルダモンの種子部の重量当たりの価格はホールに対し1.5倍となります。この場合、メースとほぼ同等の価格となりますが、それでもメースのほうがまだ少し高いという結果となりました。

また、今回は代表的なスパイスのみを調査対象としての4位という結果でしたが、マイナーで生産量が少ないスパイスを含めれば、カルダモンの順位はさらに下となる可能性もあります。

これらの結果から、カルダモンはもはや3番目に高価なスパイスとは言えません。少なくとも、サフランやバニラと同列に比較できるものではなく、その他多数のスパイスと同程度。もう少し踏み込んで言うとしても「サフランとバニラを除くスパイスの中では比較的高価なもののひとつ」というのがせいぜいでしょう。

4.2. カルダモンは高価なスパイスではない

現在では、カルダモンは決して高価なスパイスではありません。購入方法にもよりますが、今回調査したようなスパイス専門店で購入すれば、気軽にカルダモンを使用することができます。今回の調査では最小容量の商品で1gあたり10円程度でした(大容量で買えばもっと安くなります)。

ホールのカルダモン1個あたりの重さは0.1~0.3gです[※3]。通常、一度に使うカルダモンは数個~数十個程度でしょう。カレーやマサラチャイなどの香り付けに使うなら数個、種子を挽いて使う場合、小さじ1杯の粉末を作るのに必要なカルダモンが約20個です。平均的に一度に使う量が、1個0.2gのカルダモン10個(=2g)であると仮定とすれば約20円であり、決して高価なスパイスではないことがお分かりいただけるかと思います。

更に言えば、シナモンなどはカルダモン以上の量を一度に使うケースも多いのではないかと思います。重量あたりのシナモンとカルダモンの価格差は約1.5倍ですので、重量ベースでシナモンをカルダモンの1.5倍使う場合、カルダモンとシナモンの価格は同程度となります。このことからも、カルダモンが特筆するような高価なスパイスではないことが分かります。

ちなみに1回あたりの使用量という観点で見ると、現在ではサフランを抜いてバニラが最も高価なスパイスと言えるかもしれません。サフランの1回あたりの使用量が、ひとつまみ(0.1g)とすれば約100円なのに対し、バニラの莢(サヤ)1本(4g)は約800円、莢1/2としても400円分になります。バニラの価格が、生産の不安定さや需要の伸びによって近年高騰している[2]ことがその要因です。

4.3. なぜカルダモンは世界で3番目に高価といわれるようになったのか?

ここまで見てきたように、カルダモンはそれほど高価なスパイスであるとは言えません。ではなぜ「カルダモンは世界で3番目に高価なスパイス」と言われるようになったのでしょうか?それは、かつては実際にカルダモンがサフランやバニラに並ぶ高価なスパイスだったからだと考えられます。

カルダモンの栽培がインドで始まったのは19世紀後半です[3]。それ以前は、野生で自生するカルダモンからその実を採取していました。18世紀後半にはカルダモンの売買は現地の王権の専売品とされました。例えば現在のカルナータカ州・マイソールを中心に発展したマイソール王国では、カルダモンは胡椒、白檀などとともにその流通を国家が独占しました[4]。同じく現在のケララ州にあったトラヴァンコール王国でも、カルダモンは胡椒、木材や塩と共に政府がその交易を独占しました[4]。この当時は、野生からの採取のみで生産量も非常に限られていたことから、カルダモンはサフランやバニラと同様、とても高価なスパイスであったと推察されます。

19世紀後半になるとインドでカルダモンの栽培が始まり徐々に状況が変わってきます。更に、状況を一変させたのがグアテマラにおける栽培の成功でした。図3に1970年代以降のカルダモンの年間平均生産量を示します。

カルダモン生産量の推移
図3. カルダモン生産量の推移[※4]

図を見て明らかなようにカルダモンの生産量は年を追うごとに増加しています。特にグアテマラからの大量供給が価格に大きな影響を与えました。グアテマラでは現地でカルダモンを消費する習慣がないため、生産量が増加すると共にそのほぼ全量が輸出されました。更に、グアテマラにおけるカルダモンの生産コストはインドの約半分でしかありません[5]。グアテマラからの安価なカルダモンの大量供給が、カルダモンの価格低下をもたらした最大の要因と言えます。


※1 例えば文献[6]。バニラをスパイスに含めない場合はサフランに次いで2番目に高価なスパイスとも言われる[7]。

※2 ナツメグとメースは同じ植物(ニクズク)から採取されるスパイス。ナツメグはニクズクの種子、メースはその種子を覆う仮種皮。今回はそれぞれを別のスパイスとして調査した。

※3 カルダモンの重量の計測結果より:「カルダモンの挽き方」「カルダモンの購入方法」を参照。

※4 データの詳細については「カルダモンの主な生産国と消費国はどこか?」に記した。

参考文献

[1] リュシアン・ギュイヨ (1987、原書:1972) 香辛料の世界史、白水社

[2] ロイター (2019) 焦点:銀より高いバニラ、業界揺るがす価格高騰の「裏事情」、https://jp.reuters.com/article/mccormick-vanilla-idJPKCN1T803V (2020/3/15閲覧)

[3] Kusters, K. and Belcher, B. (2004) Chapter 9 Cardamom (Elettaria cardamomum) in Kerala India. In: Livelihoods and Conservation: Case Studies of Non-Timber Forest Product Systems. VOLUME 1 – ASIA, Centre for international forestry research

[4] 辛島昇 (2007) 南アジア史3、山川出版社

[5] Prabhakaran Nair, K.P. (2011) 2 - The Agronomy and Economy of Cardamom. In: Agronomy and Economy of Black Pepper and Cardamom, Elsevier, doi:10.1016/B978-0-12-391865-9.00002-5

[6] Kew Species Profiles, Elettaria cardamomum (L.) Maton, http://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:796556-1 (2020/3/15閲覧)

[7] 武政三男 (1990) スパイスのサイエンス、文園社